その上で、戦後の日本社会が成功した要因として、日本型の官僚主義などについても触れた。その頃は一流大学を出て、一流企業に入るというのが1つの成功パターンであったが、今はそんな時代ではないと氏は言う。昔の日本社会には(良い意味で)隙間があった。しかし今はそのような隙間は存在しない。但し一方で、横並びではなく、自分なりの幸福を探せばいい時代、多様性のある社会になったのだとも言う。そこで大切なのは、「自分の力で生きていくこと」である。そのようなことを考えた時、今の日本人に足りないのは「野心」と「野性」なのだそうだ。
この言葉は、筆者にとっては安藤氏の初期の代表作である「住吉の長屋」に込められた思いを端的に表現しているように感じられた。冷暖房が無く、夏は暑く冬は寒い。雨の日にはトイレに行くにも傘が必要なこの家は、若かりし頃の安藤氏の「野心」によって設計され、そこで生活するということはまさに日本人が忘れた「野性」味を蘇らせる行為と言えないだろうか。
講演の中で安藤氏は、
「光の協会」
「プンタ・デラ・ドガーナ(Punta della Dogana)-イタリア」
「サントリーミュージアム」
「大山崎山荘美術館」
「8坪の家」
「六甲の集合住宅」
「石の彫刻美術館‐ドイツ」(美術家Wolfgang Kubach氏の美術品を収蔵)
「中国・上海の一連のプロジェクト」
「東京メトロ副都心線渋谷駅」
など実作を多数挙げながら、様々なメッセージを投げ掛け続けた。
「建築は(規模が)小さくても可能性がある。」
「人が集まる場所をつくるのが建築である。」
「仕事というのは、常に境界を越えていかなければならない。」
「仕事が無いなどと言わないで欲しい。仕事は自分でつくるものだ。」
そして最後には、講演中何度も触れた東日本大震災についてもう一度触れ、
「目の輝いている子供たちをもう一度つくらなければならない。そのためには人の集まる場所をつくらなければならない。それが建築である。」と語った。いつまでも建築の可能性に挑戦し続けるその姿勢と言葉は、会場に集まった人々に大きな感動を与えたに違いない。
取材・執筆 川鍋 昌彦(かわなべ まさひこ)
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