Avid Studio × DigiCon6 クリエイターレポート モーションアートディレクター・田所貴司氏 独占ロングインタビュー(後編)

2011年10月26日 (水)

日本屈指の映像クリエイター・田所貴司氏。激動する映像業界の中で常にトップを走り続けてきた氏の、過去・現在・そしてこれからを、様々な切り口で語り尽くして頂きました。
今回はロングインタビューの前編をお届けします。

常に映像業界をリードして来た田所氏。その活動の源泉と、今に至る思考は?

―1番多いときはどのくらいのお仕事を同時に抱えられているのですか?―

そうですね、過去では8~10くらいでしょうか

―そういう時は頭の中が混乱したりはしませんか?―

意外とならないですね。アイディアに関してはそういうことはありません。一番ごちゃごちゃしてしまうのはスケジュールですね。そこに関して私は手放してしまっていますので。

―田所さんは日本屈指の映像クリエイターとして著名ですが、このような仕事を選ばれたきっかけは何でしょうか?―

最初は美術大学でファインアートを専攻していたのですが、インスタレーション作品を作った際に、作品にモニターを埋め込んだりしていました。そこに自分でHi8(テープ)を使って撮影し、つくった映像を入れたりしていました。そのあたりが最初のきっかけでしょうか。

―機材は自分で揃えられたのですか?―

自分でも持っていましたし、大学にも機材がありましたのでそれを借りて撮影していました。もともとはタブローで進んでいこう、と。美術家になろうと思っていましたが、やはりタブローには限界があると感じました。

―タブローの限界というのは、どういった所でしょうか?また、そこから映像に興味が移行した理由はどんなものだったのでしょう?―

表現の限界ではなく、コミュニケーションの限界ですね。「個展をやります、グループ展をやります。」ということで、ダイレクトメールを送る。ではそのうち何%の人が来るか。例えば1週間やって、そこで終わり。みんなそうですよ、未だにそうです。だけど、映像って違いますよね。沢山の人とコミュニケーションが出来る。「あれ見たよ。」とか「あのPVいいね。」とか「こういうことを言いたかったけど、伝わったかなぁ。」-「伝わった。」とか。「伝わってない。」とか。もう桁違いですから。テレビもそうですけど。そこがやはり最大の魅力ですね。

―自分の表現したことや、伝えたかったことが非常に多くの人に届くという点でしょうか。―

そうですね。(映像は)マス媒体に乗せ易い。有名な人はタブローで乗せている人もいますけど。そこではなくて、その作品のオリジナリティーというよりは、コミュニケーションが(自分にとって)大事だったということです。

―そうするとそういった部分に興味を惹かれて、それが徐々にお仕事になっていったということでしょうか。―

そうですね、二面性があって、表現したい欲求と、やはりビジネスの面も大きい要因ではあります。

―これはかなり前からの流れではありますが、Internet上で個人のアーティストが作品を発表し易くなっていますよね。そのあたり、従来のマスに向けて作品を創られてきた田所さんにとって、昨今の状況について何か思われるところはありますか?―

皆、漠然と「そうなったらいいな。」とは思っていたはずです。僕の中で今のところ答えはないですけど。「そんなメディアがあったらいいな。」って皆が思っていた。これまでそういう部分はテレビ局独占市場でしたが。でもネットであればパーソナルで流せるし、受け取れる。だけどいざやってみたら、意外と理想通りにはいかない。結局皆テレビを観てしまうし。ネットの需要は確かに増えたけども、絶対的なパラダイムシフトは起きない気がします。

―従来のマス媒体だと、受け手にリーチした、という作り手としての感触というものが、あるのでしょうか?―

そうですね。確実に届く。ネットは今まだどちらかと言うとエゴイズムのほうが強い。「やってやったぜ。」みたいな感じですね。それで、「勝手に拾え。」と。そういうことが出来てしまいますよね。メディアに責任が無いから。でもテレビは責任があるから、いい加減なものは流せませんよね。クオリティーも高いですし、メッセージ性が強い。違いますよね。クオリティーから何もかも。だから情報の送受信の受け口が増えたからといっても、それだけでは駄目になるのかな、というのが最近の感想です。

今の世代は3日間寝ないことよりも、他の人より良質な情報を収集すべき

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―昨年度、TBS DigiCon6 Awardsの審査員をしていただきましたが、作品をご覧になってどのような感想を持たれましたか?―

大学でも似たような授業を持っていて、教えていますが、確実にスキルは上がっています。

―ハードやソフトの機能向上に負う所が大きいかと思いますが。―

そうですね。だから意外と個人のスキルが上がっていることに驚くよりは、全体のトレンドそのもののスキルが上がっている気がします。4~5年前までは、「私アナログで、、、」という人がまだ多かったですけど、今はそんなことを言う人はあまりいないですよね。マウスがどうこうっていう次元よりも、どこかのサイトからアプリケーションをダウロードして、何かガチャガチャやって、すごいことしちゃった、というような。そのほうが偉いような雰囲気があります。そうすると目新しいことをやり出す生徒も出てきたりして、意外に面白いのです。そこは凄く感心しますね。

―ネット上に転がっているプラグインだとか、無料で手に入るものを、いかに早く、自分が作りたいもののためにモジュールを組み立てていくか、という側面が最近はありますよね。―

そうですね。そういう、人より情報が多い人が有利、もしくは情報を集めた人が有利という時代だと思います。どちらかというと技術面で、「5年バットの素振りしました。」とか、「デッサン100枚描きました。」みたいなことはトレンドではないですよ。偉くないというか。

―昔はそれが通用する部分がありましたよね?―

そうですね。昔はそのほうが良かったのです。「上手だねぇ。」なんて言って。絵を描く人が良かった時代がありました。でも今は、海外サイトから何か面白い映像を見つけてきたり、そこから触発されて新しいことをしたり。そのほうが面白いし、パーソナリティーとしては新しい。クリエイターとしては、そういうことをしている人のほうが面白いと思います。根性論で、三日寝なかったから偉い、とか。もうそういうのは関係ない。ちゃんと寝て、いい情報を揃えて、いいものつくるほうがスマートですね。

―プロジェクトに関する予算の大小に対しては何かありますか?―

予算は観ている人にとっては関係ないですよね。私にとっての一番の基準は観ている人なので、その人たちがどう思うかが重要です。「寝ないでつくったんだ、凄い。」っていうのは、伝わらない。じゃあお金が掛かっているほうが良いのか、掛かっていないほうが良いのか、というのは、観ている人が「この作品凄い。」って思うかどうかですよ。あったほうがいいに決まっています。だけど、あるが故に必要以上の仕掛けをしてしまうこともある。それで観る人の心が動くかというと、そうではないと思います。そこは、もしお金なり、パワーを注ぐところがあるとすれば、作品に対して作り手の思いがどれほど込められるか、表現できるか、なんですよね、結局。そうすると、「あ、感動した。」とか「笑える。」とか、「楽しくなっちゃう。」とか。観ている人からすれば、コンテンツそのものに対して何かを感じるのであって、お金があってもなくても関係ないじゃないですか。だから、楽しくするために掛かっちゃうのは仕方がない。要するに使い方を間違えないようにしないといけないということです。

(後編:終わり)

取材・執筆 川鍋 昌彦(かわなべ まさひこ)

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