モーションアートディレクター・田所貴司氏 独占ロングインタビュー(前編) Avid Studio × DigiCon6 クリエイターレポート

2011年11月 3日 (木)

日本屈指の映像クリエイター・田所貴司氏。激動する映像業界の中で常にトップを走り続けてきた氏の、過去・現在・そしてこれからを、様々な切り口で語り尽くして頂きました。
今回はロングインタビューの前編をお届けします。

「モーショングラフィッカー」から「モーションアートディレクター」へ

―CM、MV、PVのお仕事を多数手掛けられていますが、これまでに手掛けられたことのないお仕事で、今後やっていこうとされている分野はありますか?―

自分は広告とPV業界で育った人間です。クライアントがあって、プロダクションがあって、それぞれの役割分担が決まっている。その中で演出家として、やるべきことをやって来ました。これからやりたいことは、コンテンツをプロデュースしていくことですね。PVやCMもコンテンツの1つとして、他にも様々なコンテンツをトータル的にプロデュースまたは、ディレクションしていきたいです。近年、そういった受注も増えて大変好評を頂いています。現在も数本動いています。
内容はシンプルです。企画も自分でやらなければならないし、予算割も自分でやらなければいけない。スタッフィングから、演出も当然そうですけど。そうすると、マインドが変わりますよね。どうしたら楽しんでもらえるか。後は出来上がったコンテンツをどうやったら買ってもらえるか。そういう魅力的なコンテンツが創れるかな、とか。

―企画・立案から入るということですよね?―

そうですね。それがとても楽しいです。いずれは、映像美と合成を駆使した映画も撮りたいと考えています。

―お仕事の種類で言うと何と表現すればいいのでしょうか。―

過去は「モーショングラフィッカー」と名乗っていましたけど、ここ数年はそういう肩書はあえて使っていません。私がモーショングラフィッカーを名乗った当初は同じ職業がオペレーターって呼ばれていたわけですよ。でも自分でゼロから生み出して、自分の画を自分で描く。そういうのをモーショングラフィッカーだよ、と言って来たわけですけど、最近は次のステップを考えています。先ほども触れましたが、演出もしますが、一方で自らコンテンツもプロデュースするイメージです。「モーションアートディレクター」という表現が一番今の仕事にマッチしている気がします。

―新しい分野に挑戦する際は、手探りで大変なことが多いのではないですか?―

大変ではないですね。やったことがないものをするのが楽しくて。

―人によるとは思いますが、ある程度慣れた仕事のほうが楽で、勝手知った状況で仕事をしたほうが力を発揮できるという人もいるかと思いますが。―

そうですね。そういう人もいます。昨日もちょっと思ったのですけど、原点回帰として、自分の画を自分で描くというのは、絵描きとして本質的にありますね。やっぱり、人から「この企画です。」と言われると、「何でその企画?」って思ってしまう。面白ければいいですけど、「面白くないな。」と思ったらアウトじゃないですか。そうすると、僕がやったほうがいいな、と。だからコンテンツを欲しがる人がいて、それをつくるひとがいればそれでいいかな、と思います。

―お仕事のモチベーションは何でしょうか?―

新しい分野を開拓しているときの自分って生き生きしているなって思うし、あとは作品が出来上がっていく工程そのものが楽しいですね。そこは幸せだな、と思います。それは監督の楽しさですね。だけど本質的にやりたいことはやっぱり常に挑戦し続けることなので、常に新しい分野に進みたいです。そのモチベーションがないと演出が続けられないかもしれません。

目指してきたスタイル。そして次世代へ

―田所さんの会社は複数のかたが所属されていて、それぞれ個性がありますけど、どのあたりがメリットでしょうか。―

そうですね、同じスタイルを取っている会社は、他にないはずです。うちはうちだけかなぁと思っていて。周りをみると若干、「あ、違うな。」って思いますけど、僕の中では一番必然性があるスタイルです。もともと僕1人でやっていました。でもやっぱり1人で生きていくときの生きづらさって感じていたわけです。「マネージメントしてくれるところないかなぁ。」って思っていたし。ディレクターズカンパニーって欧米では主流ですけど、日本には当時なかったのです。どこにも、ディレクターが力を持って引っ張っていくっていうスタイルがなくて、ディレクターズカンパニーってあったらいいなぁと。その中で色々なスタッフが所属してマネージメントしていったら、1人で生きていく難しさも無くなるし、プロダクションとのネットワークで仕事も取れるし、簡単な機械があれば顧客のニーズにもダイレクトに応えられる。小さくてもいいからそれでやっていったほうがいいのではないかな、って思っていました。そこは一個一個、組み立てていって今がある。

―広告業界でいうところのタグボートさんとかに近いのかな、と思うのですが。―

そうですね。そうなりたいな、とは思いますよ。タグボートさんは素晴らしいと思いますよ。顧客をしっかり持って、いい作品を創り出しているじゃないですか。やっぱりああなりたいですよね。

―所属しているかたが複数人いることで、同じ仕事を社内で一緒にやることは?―

それはもうしょっちゅうあります。仲間意識もあるので。うちのハッピーなところは、全員精鋭という点です。全員素晴らしい。第一線に出して間違いないっていう人しかいないから、そこはハッピーです。

―基本的には1人で活躍されている人が入ってくるイメージでしょうか。―

そうですね。だから全員精鋭です。うちで育てているわけじゃない(笑)

―最後に、映像業界を目指す若い人たちにメッセージをお願いします。―

今の若い子達を見ていると、って言うとオヤジのセリフですけど、将棋のようなゲームって、相手の王を取ったら勝ちじゃないですか。自分のやりたいことが「王を取ること」だとしたら、その間起きる手って何百通りもあるわけですよね。そこをちゃんと何百手も打ってから王を欲しがるのはいいけど、最近の若い子達は王が取れないと諦めてしまうんですよ。ゲームをしないんですね。遠く感じてしまうから。努力してないって言ったら語弊がありますけど、例えば僕だとプログラミング言語も少しは読めますし、編集も出来ますし、合成も出来ますよ、と。でもそれって、「田所さん編集できるからいいですよね。」って言われますけど、「いやいや、産まれた時から出来るわけじゃないから。」と。学んでいるわけですから、ちゃんと。コンピューターだって私は学んだわけです。学んでないからその人は出来ていないけど。だから途中のゲームを割愛して王を欲しがるのではなくて、コンピューターを勉強したからってディレクターになれるかどうか分からないけど、ある程度努力をしないと。それで、努力をすると、意外とゴールは近いかもしれないと思います。

(後編:終わり)

取材・執筆 川鍋 昌彦(かわなべ まさひこ)

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